クリエイターインサイト

Jack Rhysiderに聞く、リスナーの応援から熱心なサブスクリプション登録者層を獲得する秘訣

それまでポッドキャストの熱心なリスナーだったJack Rhysiderさんは、ハッキングに関するカルチャーをテーマとした番組を探していましたが、飽きずに楽しめる番組が見つかりませんでした。そこで彼は2017年10月、ハッキングやデータ漏えい、サイバー犯罪など「インターネットの暗黒面をめぐる真実の物語」を探究する「Darknet Diary」を立ち上げます。2021年末までに、この「Darknet Diary」の年間ダウンロード数は2,290万を記録しました。

Rhysiderさんは、Apple Podcastで配信を行いつつ、他の番組との相互プロモーションを増やし、マーケティングに予算を回すといった仕事をこなしながら、Apple Podcasters Programに参加して「Darknet Diaries+」を立ち上げますこれは、リスナーが番組を金銭面でサポートすれば、広告なしのエピソードやボーナスコンテンツなどの特典オーディオを受け取れる仕組みを提供するものでした。

2021年8月、RhysiderさんはApple Podcastでサブスクリプションの提供を始めてから最初の45日間の記録を公開しました。そこでApple PodcastはRhysiderさんにインタビューし、ポッドキャストをどのように作り、サブスクリプションを成功に導いたか、また彼の様々な経験からポッドキャストのクリエイターが学べる教訓について詳しく聞きました。

Darknet Diaries」の声、Jack Rhysiderさんをご紹介します。

チャンス

「あなたを応援する方法はありませんか」

Rhysiderさんが自分のリスナーにプレミアムな体験を提供したいと考えるようになったのは、ファンと交流する中で寄せられたある提案がきっかけでした。

「最初は、積極的に見返りを求めることに大きなためらいを感じていました」とRhysiderさんは話します。「(ポッドキャスト配信で)ほかにも収益を上げる方法はあるはずだと思っていたんです。でもそのうちに、番組に心底夢中になってくれた人たちから、『どうすれば寄付できますか』とか、『あなたを応援する方法はありませんか』とか、『あなたに直接お金を払うにはどうすればいいですか』とちらほら聞かれるようになりました。でも、私にはそういう仕組みがなかったので、これからも番組を楽しんで、みんなに共有してくれればいい、と答えていました」

「でもある時、5人の方から『あなたにお金を払う方法はないのか』と問い合わせがあり、『これは何か作ってみるしかない、やってみよう』という気になったんです。それが始まりでした」

アプローチ

Rhysiderさんは、ほかのポッドキャストクリエイターたちを参考に、どんなプレミアムな特典を提供したらいいかヒントを得ようとしました。そして、広告なしのコンテンツとボーナスエピソードの2つが特に人気だということに気づきます。ほかの配信プラットフォームもいくつか試してみましたが、彼が魅力を感じたのは、Apple Podcastでのサブスクリプションのシンプルさでした。

「Apple Podcastサブスクリプションのいいところは、何もかもApp内で完結し、利用しやすいことだと思います。(ほかのプラットフォームでは)別のウェブサイトに移動してサブスクリプションに登録したり、アカウントを作ったり、料金を払うにもクレジットカードが必要だったりと、いろいろ面倒です。でもAppleならすべて統合されているので、リスナーにとって、ずっとスムーズで手軽です」

番組アートを一新し、プラットフォームでの存在感を高める

サブスクリプション登録者向けオーディオの計画を立て、プレミアムコンテンツを制作したRhysiderさんは、次は「Darknet Diaries」のビジュアルブランディングを見直さなければ、と思い立ちます。彼が目指したのは、既存のリスナーとの関係を保ちつつ、新しい潜在的なファンを惹きつけ、Apple Podcastで番組を見つけてもらうことでした。

以前は、SNS番組のウェブサイトでのプロモーションに使用する番組用のアートワークや各エピソードのアートを自作していましたが、プレミアムな特典の認知度を上げるため、Rhysiderさんはデザイナーに依頼して、ポッドキャストのために人目を引くイラストを描いてもらうことにします。Apple Podcastの番組ページ用の縦表示のテンプレートとサブスクリプション用の横表示のテンプレートを使ったプロモーション用のアートワークも作成しました。

「SNSやAppを見ている時は、みんなひたすらスクロールしていきます。その手を止めてもらわなくてはいけません」
Jack Rhysider、「Darknet Diaries」ホスト

「この番組は成功に向かっているらしいことに気づいてから、プロのデザイナーなどを数人雇って、全体のリブランディングをすることにしました。これまでのものをデザインし直し、新しいイメージを作っていきたいと考えました」とRhysiderさんは話します。「例えば、特徴的なカラーテーマやスタイルなどです。あの頃はそうしたことすべてに妥協しませんでした」

Darknet Diaries」番組ページの縦表示アートワークの例。

「SNSやAppを見ている時は、みんなひたすらスクロールしていきます。その手を止めてもらわなくてはいけません」さらにRhysiderさんは、こうした手間をかけて番組のために作成したアートが、新たな収益源になることに気づきます。「このアートでシャツやステッカーを作ってみよう、と思い立ちました。アートワークを多めに用意していたので、様々なものに応用し、それが第二の収益源になっています」

Darknet Diaries」のサブスクリプションの横表示アートワークの例。

価格についてのアドバイス

ファンに提供するプレミアムな体験の価格設定にあたって、Rhysiderさんが最終的に落ち着いたのは、Apple Podcastの他のポッドキャストが設定している値ごろ感のある価格ではなく、月額4.99米ドルでした。「安く設定してから値上げするより、初めは高く設定して値下げするほうが簡単だと思います」

宣伝する

サブスクリプションの特典を決め、新しいブランドアートを用意したら、次は「Darknet Diaries」のリスナーに向けて、番組を金銭面でサポートすれば特典が得られることを周知しなくてはいけません。そこでRhysiderさんは、Apple Podcastでこうした特典を検索しているリスナーに向けて、App内メッセージを使って率直に呼びかけました。

「いろいろなアイデアを検討しましたが、シンプルなメッセージがいいと判断しました。サブスクリプションに登録するとボーナスコンテンツや広告なしのフィードといった特典が受けられる、という内容です」

プラットフォームの外でのメッセージについて、Rhysiderさんは当初、「オーディエンスの勧誘どころか、Apple Podcastサブスクリプションでボーナスコンテンツや広告なしエピソードが聴けることを伝えようともしていませんでした」と話します。「つまり、その頃のリスナーは一人残らず、Apple PodcastのAppを使って自力でサブスクリプションを発見していたわけです。これはすごいことです」

その後、Rhysiderさんは、「Darknet Diaries」のすべてのエピソードでプレミアム特典について言い添えるようにし、認知度向上に努めるようになりました。また、Appの番組ホームページでの記載に加え、自分のウェブサイトにボーナスコンテンツのプロモーション専用ページも用意しました。

Apple Podcast Connectでリスナーの行動を理解する

サブスクリプションの提供を開始してから、RhysiderさんはApple Podcast Connectのアナリティクスとサブスクリプションレポートを定期的にチェックし、ファンがどのようにプレミアム特典を利用しているかや、自分の新たな取り組みが番組の全体的なKPI(主要業績評価指標)にどんな影響をもたらしているかの把握に努めています。

「時々チェックして、リスナーがサブスクリプション登録を解除した時の状況から何かわかることがないかを確認するといいと思います」とRhysiderさんは助言しています。

「ほかにも、Apple Podcast Connectではすべてのエピソードについてリスナーのリテンション率を確認できます」と、アナリティクスについても言及しています。「そうすれば、オーディエンスが最後まで聞いてくれたエピソードや、思ったほどリスナーに受けなかったエピソードがわかります。オーディエンスの感情や番組への反応を大まかに把握する指標になります」

さらにRhysiderさんは、コンテンツの構成を考える際にもアナリティクスを参考にしています。「時々、番組の中でだらだらと話し過ぎたり、脱線したりすると、これを聴き続けてくれている人はいるだろうかとふと気になります。そうした時、自分がやりすぎたかどうかがわかるのでとても参考になります。どの辺でリスナーが脱落しはじめるかが把握できますから」

成果

効果と成長

サブスクリプションの提供を開始してから半年後の2022年1月、「Darknet Diaries+」の有料サブスクリプション登録者数は1,800人を超え、2021年8月から168パーセント増加しました。「つまり、月額4.99米ドルのApple Podcastサブスクリプションだけで、1か月の収益が6,000米ドル以上になるということです」とRhysiderさんは指摘します。約1年後の現在、サブスクリプション登録者数は2,200人を超え、2021年8月と比較して228%の伸びを見せています。

Rhysiderさんは自身のウェブサイトで全体のダウンロード数などの統計データを以前に公開していましたが、広告販売に使用される指標となる「Darknet Diaries」のメインフィードのダウンロード数は、2021年にApple Podcastで685万回となっていました。この数字も、410万回であった前年から増加しており、66パーセント増です。

Rhysiderさんが、こうしたポッドキャストの指標を公表していた理由は何でしょうか。「状況の理解がある程度進んだところで、こうした情報を必要としている人が大勢いることに気づいたためです。それなら公開してもいいと思いました」とRhysiderさんは説明します。「というわけでブログを書いたり質問に答えたりして、ポッドキャスト界に貢献しようとしています」

4月以降、Rhysiderさんは広告なしの特典を引き続き提供しながらも、新しいボーナスコンテンツの追加については停止しました。それは、一つには自分にもう少し余裕を作るためでした。

「受信トレイが未読メールであふれ返っていて、途方に暮れるような感じなんです。ある時点から、目の前の仕事をこなすだけで手一杯になっていました」とRhysiderさんは言います。「マーケティングに奔走しながら、新しいエピソードの公開もしたい、その他諸々の仕事もやらないと、といった始末でした。燃え尽き症候群にまでは至りませんでしたが、すべてのことにのめり込みすぎていたんです」

追加コンテンツが少なくても、サブスクリプション購入に関するリスナーの行動に影響は及ばないとRhysiderさんは考えています。こう考えるのは、そもそも「あなたを応援する方法はありませんか」というリスナーからのあの問い合わせが原点にあるからです。

「今ある10のボーナスエピソードと広告なしの特典が十分、登録を考えている人への動機付けになると考えています。ああ、こういう追加コンテンツがあるのか、どんな内容だろう、と興味を引いてもらえると思います。しかも、広告なしなので、リスナーは余分なことに時間を取られなくて済みます。番組をサブスクリプションしてくれているリスナーの半数ほどは、広告なしのバージョンを聴くために登録していると思います。残りの半分は、単純に私を応援してくれている人たちです」

Rhysiderさんは、クリエイターとしての自分に直接向けられた応援を、「Darknet Diaries」のサブスクリプションを宣伝するメッセージに生かしています。「普段よく言っているのは、『私がこうして続けられるのは、応援してくれている皆さんのおかげです。そのことを心から感謝しています。私の番組には聞く価値がある、とお考えの方は、Apple Podcastでサブスクリプション登録するなどの方法で応援をお願いします』といった内容です。また、『広告にうんざりしているなら、広告なしのバージョンもありますよ』と呼びかけることもあります」

サブスクリプションを始めた頃に話を戻しますが、Rhysiderさんが当時、大変だと感じていたのは、広告なしコンテンツとボーナスエピソードの開始に必要となる設定作業でした。しっかりした内容のほうがリスナーに受けることがわかっていたので、こうしたサブスクリプション登録者向けの特典をアップロードするために人を雇ったといいます。「実はこれが収益を生むコツです。月額サブスクリプションからは、人件費以上の収益を上げられますから」とRhysiderさんは言います。「お金を払って人に手伝ってもらうことで、もっと多くの収益を得られます。それだけの価値は間違いなくあります」